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A Precious New Year(5)

タイトルはノアからのラカムへの気持ちだと思っていただければ。
「……んがっ」
 自分の変な声で目が覚めた。
「……もう朝か?」
 寝ぼけ眼を擦ると、昨夜ふところに抱えて眠ったはずのノアがいない。
「……」
 起き上がって頭を掻く――我ながら、これはかなり恥ずかしいのではないか。ノアをぬいぐるみか何かのように抱え込んでベッドに入ったは良いが、彼が眠るのを見届けず、自分のほうが先に寝入ってしまった。しかも、どうやらノアはラカムの手を解いて先に起きた、あるいは眠らなかったらしい。
「……細かったよな」
 ラカムは、その腕に抱いたノアの矮躯を思う。
「メシは食ってるはずだが……もしかして、本当はメシもいらねえのか?」
 考えてもラカムにはわからない。目下必要なのは、寝癖を直すことと、髭を整えることだ。
「しっかしノアのやつ、どこ行ったんだ?」
「今戻ったよ」
「うおっ!?」
 扉の前に、湯気を立てるマグカップを手にしたノアがいた。
「ごめんよ。あんまり気持ちよさそうに寝ていたものだから、起こすのが忍びなくてね」
 ふふ、と笑ったノアの目元に、隈はなかった。
「……お前、ちゃんと眠れたんだな」
「さあ、どうだろうね?」
 ノアは手近な丸椅子に座りながら、いたずらっぽく言う。ラカムはホッとした。ラカムをからかうその態度はまさにいつものノアだし、彼の周囲を漂う光も心なしか昨夜より強まっているように見える。
「あ、そうだ」
 ノアは何やら机の引き出しから袋を取り出すと、ベッドに歩み寄ってラカムに手渡した。
「なんだ、これ」
「あけましておめでとう。僕からのお年玉だよ」
「あぁ!? お年玉だぁ!?」
 手の中にあるそれは、いわゆるぽち袋だった。『ラカムくんへ』と書かれた筆跡は間違いなくノアのもの。
「俺はあげる側だ!」
「おや? 変だねえ。いつもは若く見られたがっているのに……」
「うるせー!」
 ラカムは布団を頭までかぶって丸まった。ノアにからかわれると、なぜか子供じみた態度をとってしまう。はたから見れば、大の男が子供に対して拗ねている異様な光景だろう。だがラカムにはこの不思議な距離感と関係が心地よい。できるなら、ノアにもそうであって欲しい。
「ラカム、まだ寝るかい?」
「……」
「ふふっ……しょうがないなあ」
 背中から、嬉しそうなのにどこか寂しそうな声が聞こえた。
 体の向きを変えて布団の中から顔を少し出し、ノアをちらりと見る。彼は丸椅子に座り直して、マグカップの縁に口をつけていた。
「これはホットミルクだよ。眠くなる成分が入っているそうだ」
 ラカムの視線にノアが答える。
 眠気を誘うホットミルクを、ノアは自分で選んだのだろうか――ラカムの気持ちは、ノアに届いたのだろうか。
 少しの間があって、コトン、と机の上にマグカップが置かれた音がした。おもむろに立ち上がったノアは、ラカムがくるまっている布団をぐいぐいと引っ張る。ラカムは、布団を剥がされないように抵抗してみた。
「おや、今度はベッドに入れてくれないのかい?」
「……」
 この抵抗に意味などない。だが、無意味なやり取りをこそ、ラカムはノアとしたかった。
 ラカムにとってノアは、用がなければ話もしないような、そんな遠くて小さな存在ではない。彼は仲間の中でも特別。ラカムの運命そのものとでも言うべきかけがえのない存在。彼との”約束”が、ラカムの人生の航路を決定づけたのだ。
「……しゃあねえ。入れてやらあ」
 布団を持ち上げて、シーツを手のひらでぽんぽんと叩いて示す。すると、ノアはなぜか一瞬目を見開いてから、穏やかに微笑んだ。
「ありがとう」
 ゆっくりとノアの体が近づいてくる。彼の確かな暖かさを感じる。
 向かい合って寝そべり、二人はベッドの上で一枚の布団にくるまった。
「案外気持ちが良いものだね」
「俺たちにとっても睡眠は気持ちいいもんだしな。ってか、眠れねえとイライラしてくんだよな」
「そうか……なら、今度からは定期的に眠ることにしようかな」
「そうしろそうしろ。せっかく部屋にベッドもあることだしな」
「二人だと少し狭いけどね」
「って、おい!」
 ノアはラカムにギュッとしがみつき、胸元に顔を埋めた。近すぎる距離に、ラカムの心臓が早鐘を打つ。
「君は、変わらないね。いつも僕のほしいものをくれる」
「な、何言ってんだ? 俺はお前になんにもやってねえだろ」
「そんなことないよ」
 胸元から聞こえる声はくぐもっていて、その細かな機微までわからない。
 ノアの本音はどこにあるのだろう。少し見えそうになっても、ノアははみ出した想いをすぐに隠してしまう。
 そのことが、たまらなく寂しい。

(結局、去年のやり残しを今年に持ち越しちまったな)

 こうしてくっついているだけで、彼の心のうちが伝わってくればいいのに――
 ラカムは、ノアの細く小さな体をやさしく抱いて目を閉じた。


【終】



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2017-02-18
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